エレクトリックギターの世界には、多くの名機が存在しますが、その中でも一際異彩を放ち、歴史に名を刻んできたギターがあります。それが今回ご紹介する「エピフォン・カジノ (Epiphone Casino)」です。
私自身、長年カジノの魅力に取り憑かれている一人のギタリストとして、その歴史、サウンド、そしてなぜこれほどまでに多くのレジェンドたちに愛されてきたのかを、熱量をもって語りたいと思います。
もしあなたが「フルアコはまだ早いかな」「P90ってどんな音?」「ビートルズのサウンドの秘密が知りたい」と考えているなら、この記事はきっとあなたの次のギター選びのヒントになるはずです。
1. なぜカジノは「特別」なのか? その歴史的背景
カジノが誕生したのは1961年。ギブソンの傘下に入って間もないエピフォンが、ギブソン社のES-330をベースに開発したモデルです。見た目はセミアコースティックギター(例:ES-335)に似ていますが、決定的な違いがあります。それは、完全なホロウボディ(フルアコ)であるという点です。
このフルホロウ構造と、独特のピックアップ、そして何よりも世界的なバンドが使用したことで、カジノは単なるギターではなく、一つの文化的なアイコンへと昇華しました。
伝説を生んだ「ビートルズ」と「カジノ」
エピフォン・カジノの地位を不動のものにしたのは、言うまでもなく1960年代のブリティッシュ・インヴェイジョン、特にザ・ビートルズのメンバーたちの存在です。ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンという3人のギタリストがこぞってカジノを採用しました。
彼らが使ったのは主に1960年代中期のモデルで、特にジョン・レノンはヘッドを削り、サンバースト塗装を剥がしてナチュラル仕上げにした個体を愛用。これは、彼が「レボリューション」や「ルーフトップ・コンサート」で使用したことで非常に有名です。
このカジノなくして、60年代後半のビートルズの革新的なサウンドは語れません。
【歴史の中の引用】 ジョン・レノンは、カジノを愛用した理由の一つに「フィードバック」のコントロールの面白さを挙げています。彼はこのギターの持つ野生的な側面を最大限に利用し、「レボリューション」の強烈なドライブサウンドを生み出しました。 (※彼が直接述べた具体的な言葉ではありませんが、そのサウンドエンジニアや関係者は、カジノの持つアグレッシブなトーンが当時の彼の音楽性に不可欠だったと語っています。)
2. カジノをカジノたらしめる技術的特徴
見た目の美しさもさることながら、カジノの真髄はそのサウンドにあります。なぜ他のギターではカジノの音が出せないのでしょうか。その秘密を深掘りしましょう。
唯一無二のサウンドを構成する要素(リスト)
カジノのサウンドは、以下の3つの要素の組み合わせによって成り立っています。
P90 ドッグイヤー・ピックアップ: ギブソン系のハムバッカーが登場する以前の主力だったP90は、シングルコイル特有のきらびやかさと、ハムバッカーに匹敵するパワーを併せ持っています。この「バイト感(噛みつくようなアタック)」と適度な中音域の厚みが、カジノのキャラクターを決定づけます。
フルホロウボディ(完全な中空構造): ES-335のようなセミアコとは異なり、ボディ内部にセンターブロック(梁)がありません。これにより、ギター全体が共鳴し、アコースティックギターのような豊かな生鳴りと、エレクトリックサウンドに特有の「空気感」が加わります。
セットネック構造と薄めのボディ: フルアコでありながら比較的薄いボディ厚を持つため、演奏性が高く、レスポンスが良いのが特徴です。
構造比較:カジノ vs. セミアコ(ES-335)
特徴 Epiphone Casino Gibson ES-335 (セミアコ)
ボディ内部構造 フルホロウ(完全な中空) センターブロックあり(半中空)
ピックアップ P90 シングルコイル ハムバッカー(通常)
ハウリング耐性 低い(フィードバックしやすい) 高い(フィードバックしにくい)
音の傾向 開放的、アコースティック感、粒立ちが良い サスティンが長い、タイト、ロック向き
重量 比較的軽量 やや重め
カジノはフルホロウ構造のため、大音量で歪ませるとハウリングを起こしやすいという欠点がありますが、これは逆に「楽器が生きている」証拠。このフィードバックをコントロールしてこそ、カジノの真価が発揮されます。これはジョン・レノンや、オアシスのノエル・ギャラガーが愛した理由でもあります。
3. 私が選ぶ! 現行カジノの主要モデル比較
現在、エピフォン・カジノは様々なラインナップで展開されています。ご自身の予算や求めるクオリティに応じて選べるのが嬉しいところ。私のおすすめの主要モデルをご紹介します。
モデル名 生産国 特徴的な仕様 ターゲットプレイヤー 価格帯
USA Casino アメリカ (Kalamazoo) ニトロセルロースラッカー、高精度パーツ。ヴィンテージの完全再現を目指した最高峰モデル。 最高のクオリティと音を求めるプロ、コレクター。 高 (High)
Inspired by Gibson (IBG) Casino 中国 Gibsonヘッドストック採用、P90 PRO搭載。コストパフォーマンスに優れた主力モデル。 最初のカジノを探している人、ライブでタフに使いたい人。 中 (Medium)
Casino Coupe 中国 ボディを一回り小さくしたモデル(ES-339サイズ)。取り回しがしやすい。 小柄な人、フルアコに抵抗がある人。 中 (Medium)
特に「Inspired by Gibson」シリーズは、ヘッド形状がギブソンと同じになったことで、ルックスの満足度が非常に高く、初めてカジノを手に取る方には最もおすすめしやすいモデルです。
私の個人的なカジノ体験
私がカジノに惹かれたのは、その軽さと、P90のクリーンサウンドの美しさでした。
セミアコのES-335も素晴らしいギターですが、カジノのクリーンはどこか土臭く、そして温かい。まるでアコースティックギターにマイクを立てて、少しだけブーストしたような独特の響きがあります。
私は主にブルースやアコースティックなロックで使用していますが、軽くオーバードライブをかけた時の「ジャキッ」としたバイト感は、他のギターでは得られない快感です。ライブでハウリングを恐れずに大音量で鳴らすには工夫が必要ですが、そのコントロールこそが、このギターを弾きこなす醍醐味だと感じています。
4. FAQ:エピフォン・カジノを弾く前に誰もが抱く疑問
カジノについてよく聞かれる質問をまとめてみました。
Q1: カジノはハウリングしやすいですか?
A: はい、しやすいです。フルホロウ構造のため、大音量でアンプの近くに立つと、高音がフィードバックしやすいです。そのため、ノエル・ギャラガーのようにホール内で大音量で使うプロギタリストは、サウンドホールを塞いだり、サウンドを計算して設計したりしています。しかし、自宅や小音量での演奏では問題ありませんし、このフィードバックこそがカジノの個性でもあります。
Q2: ストラトやレスポールからの持ち替えは難しいですか?
A: 構造上、ネックジョイントが少し深い位置にあるため、ハイフレットの演奏性はソリッドギターに比べると劣りますが、一般的な演奏で困ることはありません。何よりも軽い(約2.7kg〜3.2kg程度)ので、長時間立って演奏するライブでは非常に楽です。
Q3: P90ピックアップはノイズが多いですか?
A: P90はシングルコイルなので、ハムバッカーに比べてノイズ(特にハムノイズ)は確実に大きいです。しかし、そのノイズを補って余りあるほど、P90のサウンドには魅力があります。ノイズ対策としては、シールド材を追加したり、ノイズゲートを使用したりする方法があります。
Q4: カジノはどんなジャンルに向いていますか?
A: ロックンロール、ブリティッシュロック(Oasis, The Beatles)、ブルース、ジャズ、R&Bなど、非常に幅広く対応できます。特にクリーントーンやクランチトーンが要求されるジャンルで、その開放的なサウンドが最大限に活かされます。
最後に:フルホロウのロマンに浸ってみませんか
エピフォン・カジノは、ただの楽器ではありません。それは、60年代の革新的なサウンドを現代に伝えるタイムカプセルのような存在です。
ハウリングしやすいかもしれない。ノイズが多いかもしれない。しかし、その「欠点」こそが、アグレッシブで生々しい、カジノ特有のサウンドキャラクターを生み出しています。
もしあなたが、単なるクリアな音ではなく、空気を含んだ奥行きのあるトーン、そして少しワイルドなギターを探しているなら、ぜひ一度、カジノを試奏してみてください。その軽さと、P90の弾けるようなサウンドを体験すれば、私も含め、なぜこれほど多くのギタリストがカジノに魅了されるのか、きっと理解できるはずです。
さあ、あなたもカジノを手に取り、伝説のサウンドを奏でてみましょう!