美しい自然と豊かな食の宝庫、北海道。国内外から多くの観光客を惹きつけるこの大地に、「カジノを含む統合型リゾート(IR)」の誘致構想がかつて大きな注目を集めました。その中心地として名乗りを上げたのが、道央の要衝、苫小牧市です。
今回は、この「北海道・苫小牧IR構想」について、その魅力、期待された効果、そして実現への課題を振り返りながら、今後の可能性を探ります。
苫小牧がIR候補地だった理由
なぜ、北海道のIR候補地として苫小牧が有力視されたのでしょうか。そこには、他の地域にはない明確なアドバンテージがありました。
新千歳空港からのアクセス抜群: 北海道の空の玄関口である新千歳空港から、車でわずか30分圏内という好立地は、国内外からの集客を考える上で非常に大きな強みでした。
広大な開発用地: 既存の市街地から離れた場所に、大規模な開発が可能な広大な土地が存在していました。これは、カジノだけでなく、ホテル、MICE施設(国際会議場・展示場)、テーマパークなどを複合的に配備するIR施設にとって不可欠な要素です。
港湾都市としての機能: 苫小牧港は北海道最大の国際貿易港であり、フェリー航路も充実しています。陸海空からのアクセスを見込めることも魅力の一つでした。
既存インフラの活用: 産業都市として栄えてきた苫小牧には、道路や電力などの既存インフラが比較的整備されており、大規模開発の初期投資を抑える効果も期待されました。
統合型リゾート(IR)とは?
「カジノ」と聞くとギャンブル施設だけを想像しがちですが、IR(Integrated Resort)は異なります。単なるカジノ施設ではなく、以下のような多様な要素を統合した複合観光施設を指します。
国際会議場・展示場(MICE施設): 大規模な国際会議やイベント、見本市などを開催し、ビジネス客を誘致。
一流ホテル: 多様なニーズに対応するラグジュアリーホテルやシティホテル。
エンターテインメント施設: 劇場、アリーナ、テーマパークなど、家族でも楽しめる施設。
ショッピングモール: ブランドショップから地元産品まで扱う商業施設。
カジノ施設: 収益を生み出し、他の施設の運営を支える中核施設の一つ。
IRの目的は、カジノをフックとして、多岐にわたる魅力で多くの人を呼び込み、地域経済を活性化させることにあります。
北海道・苫小牧IR構想に期待された効果
もし実現していれば、苫小牧IRは北海道に計り知れない経済効果と変革をもたらしたでしょう。
経済の活性化: 建設段階から開業後まで、莫大な経済波及効果と税収増が見込まれました。
雇用創出: 建設業からサービス業まで、数万人規模の新規雇用が創出されると試算されていました。
国際観光客の誘致: アジアを始めとする富裕層やMICE客を呼び込み、北海道全体の観光産業の国際競争力を高めることが期待されました。
MICE機能の強化: 国際的なイベント開催能力を向上させ、ビジネスシーンにおける北海道の存在感を高めます。
新たな観光資源: 雪や食といった既存の観光資源に加え、通年で楽しめる一大エンターテインメント拠点となります。
課題と懸念
一方で、IR誘致には常に課題と懸念がつきまといます。
ギャンブル依存症対策: 最も大きな懸念です。IR推進法では、入場制限やマイナンバーカードによる本人確認などの厳しい対策が義務付けられています。
治安悪化への懸念: 犯罪増加への懸念に対し、警備体制の強化や警察との連携が不可欠です。
周辺住民への影響: 交通渋滞、環境への負荷、景観の変化など、地域住民への影響を最小限に抑えるための対策が求められます。
環境アセスメント: 北海道という豊かな自然を持つ地域において、大規模開発が環境に与える影響は慎重な評価が必要でした。
苫小牧IR構想の現在の状況
北海道は、IR誘致に向けて意欲的に取り組み、苫小牧市を候補地として選定し、事業者からのコンセプト提案を受け付けるなど、準備を進めていました。
しかし、2019年11月、当時の鈴木直道北海道知事は、環境アセスメントに要する時間や国の審査期間、財政的な負担などを理由に、IR誘致プロセスに「休止符を打つ」ことを表明し、正式に誘致を断念しました。
この決断は、地域経済への期待と、環境保全や住民福祉への配慮との間で揺れる北海道の難しい選択を物語っています。
今後の展望
北海道・苫小牧IR構想は一旦幕を下ろしましたが、日本におけるIR開発自体は、大阪(夢洲)と長崎(ハウステンボス隣接地)の2か所で進行中です。これらのIRの動向は、将来的に北海道が再びIR誘致を検討する際の大きな参考となるでしょう。
北海道が抱える人口減少や地域経済の活性化という課題は、IR断念後も変わらず存在します。いつか、状況の変化や新たな技術革新によって、カジノではない形での「新しい統合型リゾート」や、既存の観光資源と融合した画期的な大型プロジェクトが北海道、そして苫小牧で再浮上する可能性もゼロではありません。
北海道・苫小牧IR構想は、まさに「夢と現実の狭間」に位置するプロジェクトでした。その壮大なビジョンと、実現の難しさ、そして地域が抱える様々な思惑が交錯する、示唆に富む事例と言えるでしょう。
皆さんは、この苫小牧IR構想について、どのようなご意見をお持ちですか? ぜひコメントで教えてください。